「循環型経済の幻想:リサイクル率水増しの手口と環境負荷の実態」
# 循環型経済の幻想:リサイクル率水増しの手口と環境負荷の実態
私が現場で見た話ですが、ある大手電機メーカーの調達部門のコンサルティングを担当していた際、「環境配慮型調達」の一環として、リサイクル率90%以上を謳うサプライヤーの工場視察に同行したことがあります。一見すると印象的な数字でしたが、実際に現場を確認すると、その「リサイクル率」の実態に愕然としました。彼らは製造過程で発生する端材や不良品を「リサイクル」としてカウントし、さらに外部から購入した再生材料も自社のリサイクル実績に含めていたのです。つまり、本来廃棄される製品の再利用率は30%程度に過ぎないにもかかわらず、統計上は90%という数字を作り上げていました。クライアントの調達担当者は「環境に配慮した調達」という社内目標を達成するためにこのサプライヤーを高く評価していましたが、私はこの数字のカラクリを説明せざるを得ませんでした。
この事例は決して特殊なケースではありません。現在、多くの企業が「サーキュラーエコノミー(循環型経済)」を掲げ、高いリサイクル率を対外的にアピールしていますが、その実態は往々にして異なります。特に調達部門が直面する問題として、サプライヤーが提示する環境関連データの信頼性確保が挙げられます。リサイクル率の水増し手法は多岐にわたり、例えば以下のようなものがあります:
1. **定義の操作**: 「リサイクル可能」と「実際にリサイクルされた」の区別をあいまいにする
2. **カウント方法の操作**: 重量ベースで計算し、重い部品のリサイクルを強調する一方で環境負荷の高い軽量部品を無視する
3. **バウンダリー(境界)の操作**: 自社に有利な範囲だけを計算対象とする
4. **ダウンサイクルの無視**: 品質が低下する再生利用をリサイクルとして同等にカウントする
これらの手法が横行する背景には、企業の環境配慮への圧力が高まる一方で、その評価指標が表面的になりがちであるという矛盾があります。ESG投資の拡大や消費者の環境意識向上により、企業は「環境に優しい」という看板を掲げる必要に迫られていますが、実質的な取り組みよりも見栄えの良い数字を追求する傾向が強まっているのです。
調達部門がこの問題に対処するためには、以下のアプローチが有効です:
**1. サプライヤー評価基準の再構築**
単純なリサイクル率ではなく、製品ライフサイクル全体での環境負荷を評価する指標を導入すべきです。例えば、LCA(ライフサイクルアセスメント)に基づく評価や、リサイクルの質(アップサイクル、同等リサイクル、ダウンサイクルの区別)を考慮した基準を設けることが重要です。
**2. データ検証プロセスの強化**
サプライヤーが提出する環境データの検証プロセスを確立しましょう。第三者監査の導入や、抜き打ち検査、詳細なデータ提出要求などを通じて、数字の裏付けを確認することが必要です。
**3. 長期的パートナーシップの構築**
真の循環型経済の実現には、サプライヤーとの協働が不可欠です。短期的なコスト削減や数値目標達成ではなく、共同で環境負荷低減に取り組むパートナーシップを構築しましょう。これには、技術共有や共同研究開発も含まれます。
**4. インセンティブ設計の見直し**
社内の調達担当者の評価基準も見直す必要があります。単純な「グリーン調達率」ではなく、実質的な環境負荷低減に貢献した取り組みを評価する仕組みを導入することで、表面的な数字追求から脱却できます。
**5. トレーサビリティの確保**
材料の調達から製品の廃棄・リサイクルまでのトレーサビリティを確保することで、リサイクル率の信頼性を高めることができます。ブロックチェーンなどの技術を活用した追跡システムの導入も検討に値します。
実際に私がコンサルティングを行った自動車部品メーカーでは、サプライヤーのリサイクル率だけでなく、リサイクルプロセスのエネルギー消費量や、リサイクル材の品質低下率なども含めた総合的な環境評価システムを導入しました。結果として、見かけ上のリサイクル率は下がったものの、製品ライフサイクル全体での環境負荷は20%以上削減することに成功しました。
また、化粧品メーカーの事例では、包装材のリサイクル率を高めるために、サプライヤーと共同でリサイクル技術の開発に投資し、3年間で実質的なリサイクル率を15%から65%に向上させました。この取り組みでは、リサイクル率の定義を明確にし、第三者機関による検証プロセスを確立したことが成功の鍵でした。
このような取り組みを通じて私が学んだのは、環境問題における「見せかけ」と「実質」の乖離を埋めるには、調達部門が主導的役割を果たせるということです。サプライチェーン全体を俯瞰できる立場にある調達部門は、実効性のある環境負荷低減策を推進する絶好のポジションにあります。
先日、長年サポートしてきた食品メーカーの調達部長から「あなたのアドバイスで、本当の意味での環境配慮型調達ができるようになった」という言葉をいただきました。数字だけを追いかけていた頃と比べて、現場の担当者たちの目の輝きが違うとのこと。私自身も調達コンサルタントとして、クライアントが真の環境価値を創出する姿を見るとき、この仕事の意義を実感します。小さな変化の積み重ねが大きな流れを作り、次世代に少しでも良い環境を残せるよう、これからも調達の現場から変革を支援していきたいと思います。夕方のオフィスで、クライアントと共に作り上げた新しい調達基準書を眺めながら、地球にやさしい未来への小さな一歩を感じる瞬間は、どんなに忙しい日々でも心が温かくなる特別な時間です。
ところで最後に、何度も夜を徹して試行錯誤した、私の苦労の結晶、ブックレット『The調達2025』 を紹介します。驚くほどの反響で、調達部員の教科書になっているようです。ダウンロードお願いします。